代替医療は宗教戦争だ。武器が必要。

友達に薦められて読みました。

「代替医療のトリック」 著:サイモン=シン

読みやすくて、1週間ぐらいで読み終わります。
せっかくなので感想を書きたいと思います。

代替医療といわれるものに対する、科学的アプローチによる分析を行った本です。日本では代替医療というより「統合医療」と呼ばれていることが多いみたいです。しかし、最も一般的にその意味がわかりやすい言葉は「民間療法」です。決して「東洋医学」とかじゃありません。

この本では、4つの民間療法(鍼、ホメオパシー、ハーブ療法、カイロプラクティック)について、極めて詳しく分析をしています。そしてその4つの民間療法をほぼ完全に切り捨てています。その根拠とした「科学的アプローチ」とは、臨床試験に対するメタサーチです。

「科学的アプローチ」とは、『●件の臨床試験に関してレビューを行ったところ、○件については正当な試験が行われたことが確認できた。残りの臨床試験は公正な方法で行われていないので評価するに値しない。有効と見られる試験において見られる治療効果は偽薬と同程度であった。そればかりか致死の危険性もある。得られるメリットに対してリスクが釣り合っておらず、この治療法は採用するべきではない』というものです。全体に病院の消毒臭が漂う固い文体で書かれているのですが、プラシーボに対して、はっきりとプラシーボと断言するところは読んでいてとても清々しいです。

ですが、この本には残念な点があります。

その巻末の付録まで含めても実際に検証したという証拠資料が記載されていないのです。臨床試験以外にも有用な公開されている論文はいくらでもあるはずですが、そういったもののURLなども掲載がありません。あまりに膨大な量を調べたためにそれを掲載できなかったのかもしれませんが、この本が明らかにしている衝撃的な事実に対して、証拠の存在感があまりに希薄なのです。

これではその代替医療を信じている人に対してまったく反論できません。「この本の著者は巨大医薬品メーカーから金をもらって書いてる」と言われて終わりです。実際にそうかどうかは関係有りません。代替医療の有効性を論じることは宗教戦争なのです。

戦争に勝つ武器として、論破するための「圧倒的な証拠」が必要なのですが、この本ではそれが提示されていません。そこが残念でなりません。それでも、「代替医療を受けている間、通常医療を避けてしまうリスク」について警鐘を鳴らす意味でこの本の存在は偉大です。民間医療を無くすことは出来なくても、それ「だけ」に依存する人は減らせるかもしれません。大きな反論を起こすに違いないことを覚悟の上で出版した著者には敬意を評したいです。

この本の一番面白いところは、最初の章の「瀉血」や「敗血病」に関わる部分です。代替医療について特に興味ない人でも、ここの部分は読み物として面白いです。時間ない人はそこだけ読むといいでしょう。かなり笑えます。

僕は常々、「ホメオパシー」と「マクロビオティック」については、僕と関係ないところでこっそりやって欲しいと思っていました。この本でその「マクロビオティック」に触れられていないのが少々残念です。

最後に、厚生労働大臣の元で統合医療の研究に関するプロジェクトチームができるそうです。金額にして10億円。チャールズ皇太子がハマっているがゆえに膨大な予算がかけられているイギリスに比べればましですが、日本医師会統合医療に対する見解がPDFで公開されてますので、ぜひこれをそのまま10億円で買い取って研究終了にしていただきたいです。

長妻大臣の答弁
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/174/0014/17401280014003a.html
統合医療に対する日本医師会の見解
http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20100310_51.pdf

#と、いいつつ僕のデスクの上には井上雄彦先生ご愛用の「天然アルカリイオン水 温泉水99」が常備されてたりしますが。。。